なぜ今「耐震診断」や「耐震補強」ということが言われているのでしょうか。
それは、日本の建築と地震の歴史とも関わりがあります。
現在、建物を設計する時に使用される構造耐震設計基準は、日本で(世界で)最初に構造規則が定められてからまだ86年で100年にも満たない浅い歴史しか経っていません。
しかし、この間の日本に於ける耐震技術の発展は、度重なる地震がもたらす地震被害から練り上げられてきた、血(人々の犠牲)と魂のこもった学者先生、実務研究者、実務家の努力による成果であります。そして特筆されてよい発展をとげてきています。構造規準の改正の契機となった大地震をいくつか列挙するだけでも、
- ● 関東大震災
- (1923年)→ 世界初の耐震基準(1924年)
- ● 福井地震
- (1948年)→ 建築基準法の制定(1950年)
- ● 新潟地震
- (1964年)→ 液状化
- ● 十勝沖地震
- (1968年)→ RC造せん断補強の強化
- ● 大分県中部地震
- (1975年)→ ピロティ階の認識
- ● 宮城県沖地震
- (1978年)→ 新耐震基準 [弾性応答1G]
- ● 兵庫県南部地震
- (1995年)→ 限界耐力計算 [応答スペクトル・地震増幅]
- ● 新潟県中越地震
- (2004年)
- ● 東北地方太平洋沖地震
- (2011年)
- ● 熊本地震
- (2016年)
となります。
従いまして、知見されていない地震被害の特性から耐震基準の改定がなされてきた我が国の耐震技術の歴史から、改定される以前の基準で設計・建設された建物には知見されていない弱点を内蔵している危険性があります。
そのため、最新の新耐震基準以前(1981年【昭和56年5月】以前)の既存建物は、この新しい基準で耐震性を再評価する必要があります。厳密には、1981年以降でも2007年6月20日以前の建物についても、増改築する時には、耐震診断が必要となる場合があります。以前の基準を満たしていたからといって、決して安全であるといえないのが、日本の建築物ですので、「耐震診断」、必要であれば「耐震補強」を行っていくということは安全・安心でいるためにも必要な要素といえる。